債務整理というと、すぐに、思い浮かぶのは自己破産ですが、住宅を維持したいのなら、住宅ローンだけは今まで通りに支払い、その他の債権を減額する個人再生という手段を選択することもできます。

そして、一般の個人が利用する個人再生では小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。

この記事では、それぞれの内容とどちらを選んだほうが有利なのかを書いています。

個人再生とは?

住宅ローンを除く負債総額が5000万円以下の個人で、将来において安定的な収入を得る見込みがある個人が利用できる制度です。

住宅ローンを除く負債総額が5000万円以上、もしくは、一定の収入を得る見込みがなければ、この手続きを利用できません。
したがって、個人再生を利用しようとする時点で無職や生活保護を考えている人は再生計画が認められませんので利用できません。

自己破産の場合は、20万円以上の現金、もしくは、20万円以上の価値がある不動産や車、家電製品などは没収となってしまいます。しかし、個人再生が認可されますと、住宅ローンは、従来通り払い続ける必要はありますが、住宅は維持したまま、それ以外の債務を減額することができます。
住宅は残したいという人にとっては、大きなメリットのある制度です。

およその目安として、以下の金額を超える分の金額に関しては免除となります。

個人再生の最低弁済額

100万円未満の人・・・・・・総額全部(100万円未満の金額は返済義務があるので、
100万円未満の場合には、個人再生手続きを使うメリットがありません)

  • 100万円以上500万円以下の人・・・・・・100万円
  • 500万円を超え1500万円以下の人・・・・・・総額の5分の1
  • 1500万円を超え3000万円以下の人・・・・・・300万円
  • 3000万円を超え5000万円以下の人・・・・・・総額の10分の1

例えば、3000万円の借金がある場合、
債権が300万円まで、約1/10に減額されます。

この金額を3年間で返済できれば、残りの2700万円が免除される制度です。

安定収入があり、自宅を維持したいという人にとっては、非常にメリットのある制度です。

なお、個人再生の中でも小規模個人再生と給与所得者等再生の2通りの方法があります。

給与所得者等再生とは?

住宅ローンを除く負債総額が5000万円以下で、かつ、会社員等で毎月安定的な収入があり、収入の変動幅が小さい個人が利用できる制度です。

給与所得者等再生のメリット

半数以上の債権者、もしくは、債権者が少なくとも総債権額の半額以上を保持している債権者が再生計画に反対しても、裁判所が認めれば、個人再生手続きが認可されます。

給与所得者等再生のデメリット

可処分所得の2年分以上、もしくは、上記の総債権額別の最低返済額のどちらか多い方を返済する必要があります。このため、扶養家族が少なく、年収が高い方は、小規模個人再生に比べて、返済額が多くなります。

小規模個人再生

住宅ローンを除く負債総額が5000万円以下で、かつ、安定的な収入が見込まれる個人が利用できる制度です。
給与所得者等再生の場合は、会社員等の安定的な収入がある個人しか利用できませんが、小規模個人再生の場合には、個人事業主でも利用可能です。

また、給与所得者等再生という名称から、会社員は給与所得者等再生しか利用できない印象を受けますが、会社員でも、こちらの小規模個人再生を利用可能です。

小規模個人再生のメリット

可処分所得が上記の総債権額別の最低返済額より多くても最低返済額を支払えば、残りは免除されますので、基本的には、給与所得者等再生の場合よりも支払金額が少なくなります。

小規模個人再生のデメリット

半数以上の債権者、もしくは、債権者が少なくとも、総債権額の半額以上を保持している債権者が再生計画に反対しすれば、個人再生手続きが認可されません。

例1:
債権者数が4社で2社が反対した場合
債権者の半数以上が反対しているため、個人再生手続きは認可されません。

例2:
債権者 Aが1,000万円、Bが100万円、Cが200万円、Dが300万円の債権を持っており、債権者Aだけが反対し、その他3人は再生計画に同意した場合。

債権者Aの債権額(1,000万円)÷債権総額1600万円(A:1,000万円+B:100万円+C:200万円+D:300万円)=62.5%となり、半額以上の債権を保持している債権者が反対しているため、再生計画は認可されません。

可処分所得の計算方法は?

年齢・扶養家族の人数・都道府県・過去2年間の収入合計額・過去2年間の所得税・住民税の金額・過去2年間の社会保険料額によって変わってきます。

例えば、私の例で試算してみると、およそ以下の通りとなりました。

平均年収:455万円(税込)
年齢:54歳
扶養家族:1人(24歳)
居住地:京都市(第一区)
所得税+住民税+社会保険料:85万円/年
手取り収入額:370万円/年

個人別生活費の額:私(47.8万円/年):娘(52.4万円/年)
世帯別生活費の額:58.3万円/年
冬季特別生活費の額:2万円/年
勤労必要経費の額:55.5万円/年
住居費の額:0円/年(親と同居のため)

合計:216万円

1年間の可処分所得額:154万円
返済最低基準額(可処分所得2年分):308万円

小規模個人再生と給与所得者等再生のどちらを選ぶべき?

それでは、小規模個人再生と給与所得者再生のどちらを選んだほうがいいのでしょうか?

上述の通り、それぞれメリット・デメリットがありますので、以下の順番で検討し、ご自身の状況に応じて選択しましょう。

検討事項一番目 反対者は半数以下か?

「債権者の半数以上、もしくは、債権総額で半額以上を持っている債権者が再生計画に反対する可能性が強いか?」

債権者が反対するといっても、債務者やその代理人である弁護士が電話でそれぞれの債権者に確認するわけではありません。債権者側が書面で異議を唱える文書を送る必要があるため、債権者側でもその分の時間と費用が発生します。書面での提出がない場合は、同意したものとみなされます。このため、最近では、ほとんどの大手金融機関は、よほどの事情がない限り、反対しません。

一方、個人からの借入や地方の小さな金融機関の場合は、反対するケースもあります。

例:
知人からの借入、1,000万円。金融機関A社、300万円。金融機関B社、200万円。

こういった場合、知人が反対すれば、債権総額の50%以上となるため、個人再生手続きが認可されない可能性があります。
そもそも個人再生手続きが認可されなければ、債務整理ができませんので、こういった場合には、支払額が大きくなるとしても給与所得者等再生を選択すべきです。

なお、政府系金融機関の場合、法人自体が国民の税金を元に成り立っているという考え方から反対するケースが多いです。また、金融機関でも地方の金融機関などは常に異議を唱えることをポリシーとしている会社があります。
どの金融機関が反対するかは、地元の弁護士が把握していますので、小規模再生にすべきか、給与所得者等再生にすべきかは弁護士と相談して決めましょう。

検討事項2番目 可処分所得は最低弁済基準額よりも大幅に多いか?

検討事項1番目を確認した後に、次の内容を確認します。
「過去2年間の可処分所得と最低弁済基準額を比較した場合、過去2年間の可処分所得が最低弁済基準額よりもはるかに多いか?」

例えば、債権総額が3,000万円、過去2年間の可処分所得が500万円だった場合のそれぞれの支払額は以下の通りとなります。

小規模再生:300万円(債権額が3,000万円以下の時の最低弁済額)
給与所得者等再生:500万円(過去2年間の可処分所得合計)

上記の通り、給与所得者等再生を選んだ場合は、200万円多く支払うこととなりますので、反対する債権者が少ないようであれば、小規模再生を選んだほうが有利になります。

逆に、可処分所得が300万円前後であれば、万一反対されても個人再生手続きが認可される給与所得者等再生を選んだほうが安全です。

ただし、どちらを選ぶにしても、きっちりと返済が見込まれる再生計画でなければ、裁判所に再生計画を認可されません。