債務整理といえば、自己破産が思い浮かびますが、住宅は残したいということであれば、個人再生という方法もあります。
この記事では、自己破産か個人再生のどちらが得かということを書いています。

自己破産と個人再生の違い

自己破産とは?

自己破産とは、裁判所から借金の免責(支払の責任を問わずに許されること)決定を得るための手続きです。
個人再生の場合は、債務が1/5~1/10に減額されるものの、支払を続ける必要がありますが、自己破産の場合は、借金が完全にゼロとなります(ただし、税金や健康保険の滞納についての支払義務は残ります)。

これは多重債務者にとって大きなメリットなのですが、当然、家や車、生命保険などの20万円以上の価値がある資産については処分しなければなりません(ただし、椅子や机や食器類など全ての生活必需品が没収され、生活できなくなるわけではありません)。

また、ほとんどの方には関係ないでしょうが、以下の職業には就けないといった制限があります。

生命保険募集人、不動産鑑定士、建設業者、旅行業者、有価証券投資顧問業者、警備業者、質屋、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士

個人再生とは?

個人再生手続きとは、住宅ローンを除く負債総額が5,000万円以下の個人で将来において一定の安定収入を得る見込みがあれば利用できる制度です。

ただ、個人再生が認可されるためには再生計画を提出し、本当に支払を継続できる見込みがなければなりません。このため、個人再生を利用しようとする時点で無職や生活保護を考えている人にとっては利用できない制度です。

自己破産においては、住宅も没収されてしまいますが、この制度であれば、住宅ローン以外の借金を圧縮し、住宅ローンを支払い続けることで住宅は残すことも可能です。

およその目安として、以下の金額を超える分の金額に関しては借金の返済が免除となります。なお、債務の合計金額が100万円未満の場合は全額返済義務がありますので、債務金額が100万円未満の場合は、個人再生手続きを利用するメリットがありません。

  • 100万円以上500万円以下の人・・・・・・100万円
  • 500万円を超え1500万円以下の人・・・・・・総額の1/5
  • 1500万円を超え3000万円以下の人・・・・・・300万円
  • 3000万円を超え5000万円以下の人・・・・・・総額の1/10

例えば、
住宅ローンが2,700万円、その他の債務が1,300万円あり、住宅は維持したいので、そのままローンを支払い、その他の債務だけ減額する場合

その他の債務が1/5まで減額されますので、その他の債務は260万円まで減額されます。
この260万円を3年間で返済できれば、残りの1,040万円が免除される制度です。
260万円を3年間ですので、およそ毎月72,000円の支払いとなります。
ただし、住宅ローンはそのまま残りますので、住宅ローンの支払と合わせて返済見込みを立てられるのかどうかがポイントとなります。毎月安定収入があり、自宅を維持したいという人にとっては、メリットのある制度です。

自己破産のメリット・デメリット

メリット

・免責不許可事由がなければ、すべての借金が免責される
ギャンブルや株式・FX投資の失敗、浪費による借金などで目に余るものがあれば、免責不許可事由となり、自己破産が許可されません。ただし、よほどの理由でなければ、原則、すべての借金が免責されます。

・借金の総額に関係なく、誰でも利用できる
個人再生のような5,000万円といった上限がありません。

デメリット

・住宅など、すべての財産が処分となる
・資格制限がある
・裁判官により支払不能と判断されない場合は自己破産できない場合がある

個人再生のメリット・デメリット

メリット

・住宅ローンの特則を利用すれば、住宅を失わずにすむ。
・資格制限がない
自己破産の場合には就けない資格が出てきますが、その制限はありません。関係する職業の方にとっては、大きなメリットです。

デメリット

・大幅に債務が減額されるとはいえ、借金をそのまま返済し続ける必要がある。

自己破産と個人再生どちらが得か?

自己破産の相談に行くと、弁護士から
「自宅を残したいですか?」
と聞かれることが多いと思います。

これは、一般的に、

「自宅を手放さずに債務整理を行いたい場合は、個人再生」
「借金の額が大きすぎて返済の見込みが立たない、あるいは、毎月安定した収入がない場合は自己破産」

と言われているからなのです。

ただ、少子高齢化が益々進展するこれからの日本では本当に住宅を持ち続ける必要があるかということも併せて検討する必要があります。

自宅を残すべきか?

平成27年頃から住宅地、商業地ともに地価は下げ止まってきたと言われております。ただし、実際に自宅の売却を考えたときには、住んでいる場所によって大きく事情が異なってきます。

例えば、私は平成11年度に憧れだった注文住宅を土地2,300万円。建築費3,200万円の合計5,500万円で兵庫県の郊外に建てました。非常に快適な家ではあったものも、その18年後に、いざ売却するとなると、たったの1,200万円でしか売れませんでした。

建物自体には、ほとんど劣化が見られませんでしたが、日本では建物自体の価値は20年でほぼゼロと言われています。住宅が高性能であるかどうかは、売却価格にそれほど影響を与えません。

これに加え、周辺地価の値下がり、さらには、債権回収会社から回収を急き立てられたこともあって、相場が1,800万とされているところ、1,200万円でしか売れなかったのです。

一方、私の実家は、築年数不詳(築100年以上経過)の町屋です。建物の評価額は完全にゼロなのですが、都心の一等地にあることから、実勢地価はバブル崩壊後の最安値から2倍以上に値上がりしています。特に、東京オリンピックまでは建築資材の上昇もあって、都心部のマンションや地価は上昇し続けるだろうと言われています。

地方創生と言われながらも、地方からの人口流出、都心部への人口流入は続いています。高齢になり、夫婦二人で住むのであれば、郊外の一戸建てよりも、都心部のマンションのほうがはるかに快適な生活が送れます。

特に、団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に入る10年後くらいからは、郊外のニュータウンなどにある築30年~40年の一戸建てがどんどん売り出されるだろうと想定されています。こうなると、さらに、郊外一戸建ての価格が下がり、都心部の地価の上昇が予想されます。

もちろん10年後の景気動向がどのようになるかを正確に予想することはできません。
ハイパーインフレとなり、多少無理をしても自宅を保持続けたほうがいいかもしれません。あるいは、自動運転の技術が普及し、車さえあれば、交通の不便な郊外であっても、何ら不自由なく生活できる社会がいつかはやってくるでしょう。ただし、現状の延長線で考える限りにおいては、相対的に都心部のマンション価格は上昇し、郊外一戸建ての価格は下げ続ける可能性が高いです。

弁護士の先生といえども不動産市況等を踏まえてアドバイスをされるわけではありません。しかし、単に、自宅を維持したいかどうかだけではなく、こういった社会情勢も考え、ローン完済後の自宅の価値も考慮に入れながら、債務整理の方法を検討すべきです。

郊外一戸建ての自宅を残すべきか?

例えば、以下のケースを想定してみましょう。

  • 郊外一戸建て
  • 債務総額 4,000万円
  • 住宅ローン 2,700万円
  • 住宅査定額 1,800万円
  • 住宅ローン完済までの期間 14年間
  • その他のローン 1,300万円

上記の場合において、住宅ローン特則を利用し、住宅ローン(20万円/月)は支払い続け、その他の債務を1/5に圧縮し、債務整理を進めたとしましょう。
ただ、14年間で合計2,700万円を支払い、住宅ローンを完済したとしても、郊外の一戸建てなので、14年後の住宅価値は、さらに下落している可能性が高いのです。
もちろん、家は家族の絆にとっても大切なものなので、一概に経済的価値だけで決めるわけにはいきませんが、老後の生活設計も含めて、適切な債務整理の方法を選択する必要があります。

都心部のマンションを残すべきか?

一方、都心部マンションで住宅ローン残額よりも、住宅査定額が大きい場合はいかがでしょうか?

  • 都心部マンション
  • 債務総額 4,000万円
  • 住宅ローン 2,700万円
  • 住宅査定額 3,500万円
  • 住宅ローン完済までの期間 14年間
  • その他のローン 1,300万円

この場合は、自宅が要らないならば、自宅を売却して借金の返済に充てることもできます。また、都心部マンションなら、住宅ローン完済後も、ある程度の資産価値が見込めますので、個人再生で住宅ローン以外の債務を圧縮し、住宅を保持することもできます。

自己破産か、個人再生か、どちらを選ぶべき?

まとめますと、以下の順序で検討すべきです。

1. 個人再生を選んだ場合、減額後の借金を返済できるだけの安定収入があるか?

安定収入がない ⇒ 自己破産
安定収入がある ⇒ 家庭事情、自宅の経済的価値、収入状況を考慮して、自己破産か個人再生かを検討

安定収入がないのであれば、他の条件に関係なく、個人再生を裁判所から認めてもらえませんので、自己破産するしかありません。

2.家庭事情、自宅の経済的価値を考慮して、自己破産か個人再生かを決定。

表にまとめると、以下の4つのパターンがあります。

家族の意思/経済的価値 高い 低い
自宅を残したい 個人再生 家族で相談
自宅は不要 個人再生 自己破産

大きく分けると上の4種類となります。

1. 自宅の経済的価値が高く、自宅を残したい ⇒ 個人再生
この場合は、明らかに個人再生を選ぶべきです。

2. 自宅の経済的価値が低いが、自宅を残したい。
既に、オーバーローン(残っているローンよりも物件の価値が低くなってしまった場合)となっているが、家族からは自宅を残したいと言われている。
老後の生活設計を考えると自己破産してしまったほうがいいのかもしれませんが、家族で協力して、今まで通りの生活を続けたいのであれば、多少無理をしても個人再生を選んだほうが満足できる結果になるかもしれません。家族で協議し、個人再生を選択するのか?自己破産するのかを検討しましょう。

3. 自宅の経済的価値は高いが、自宅は不要。
離婚、あるいは、子供が成人したため、もう広い家やマンションは要らないという方もいるでしょう。ただ、この場合、自己破産して自宅を放棄するよりも個人再生で自宅を維持し、適切なタイミングで売却したほうが経済的にはメリットが大きくなります。弁護士だけでなく不動産の専門家とも相談しましょう。

4. 自宅の経済的価値も低く、自宅も不要。
この場合は、自己破産してゼロから再出発しましょう。ただし、自己破産はあくまで裁判官に支払不能であると判断してもらう必要があります。十分な収入がある場合は、自己破産が認められないかもしれませんので、弁護士と相談のうえ、適切な債務整理方法を決定しましょう。