奨学金を返せない人が増加しており、奨学金破産として社会問題となっています。
奨学金を滞納した人は32万人。奨学金が返せなくて自己破産した人も累計で1万人を超えたとのこと。
この記事では、奨学金破産が増加している理由と奨学金が返せなくなった場合の対処法を書いています。

奨学金の利用者は大学生2.6人に1人

大学への進学率の上昇、授業料・入学料の上昇、および、親世代の収入低下により、奨学金の利用者は増加傾向にあります。

進学率の上昇

平成4年度には大学+短大への進学率が38.9%だったのに対し、平成27年度は56.5%と45%も上昇しています。
また、大学+短大+高専+専門学校の進学率も57.2%から79.8%へと40%近く上昇しています。

大学の授業料・入学料

大学の授業料・入学料に関しても、年々上昇傾向にあります。

平成4年 国立大学 授業料375,600 入学料230,000 私立大学 授業料668,460 入学料271,948
平成27年  国立大学 授業料535,800    入学料282,000    私立大学    授業料868,447     入学料256,069

国立大学で約40%、金額ベースで約16万円、私立大学で30%、金額ベースで約20万円も乗用しています。

また、大学に入る前の学習塾においても授業料は年々上昇傾向にあります。

実は、数年前に、「親の年収や学歴が高い家庭の子供ほど、学校の成績がよい」という調査結果が文部科学省から公表されました。この調査は2013年4月に実施された全国学力調査の結果と保護者へのアンケート調査の結果を組み合わせて作成されたものです。

その結果、小学校、中学校とも、調査対象となったすべての科目において、所得や親の学歴が高い子供のほうが成績が高いという結果となりました。同じような調査は2009年にも実施されていますが、その時も同様の結果となりました。

特に、都心部では、この調査を元に大手学習塾が

「年収が高い世帯は、教育投資にお金をかけられる。
だから、子供の学力が向上し、高学歴・高収入が得られるようになる。
子供の将来のために、ぜひ、私どもの学習塾へお越しください」

とPRを行い、さらに、受験競争に拍車がかかり、教育費上昇の要因にもなっています。

給与の推移

一方、平均給与に関しては、平成9年度には470万円を突破しましたが、年々減少が続き、平成21年には400万円代まで落ち込みました。その後、上昇傾向にはありますが、まだピーク時とは10%程度の差があります。

こういったことを背景に、20年前は東京への進学者が多かったのですが、下宿代などの負担増を減らすため、たとえ東京の国公立や有名私大に合格ができる力があっても、地元の大学を選ぶ学生が増えています。
特に、関西では地元志向が強くなり、関西有名私大の偏差値が上昇している理由とも言われています。

奨学金の延滞者4%

これらを背景として、奨学金の受給者も平成17年度には4人に1人だったのが、平成27年度には2.6人に1人と約1.5倍に増加しています。

そして、奨学金の延滞者(3ケ月以上)は現在4%近くになっています。
特に、就職難を背景として地方の私立大学で延滞者が多くなっています。

対処方法

ただし、民間の金融機関からの借入と異なり、日本学生支援機構では、就職できなかった学生や失業者などの返済が困難な方に対しての支援策がありますので、延滞する前に、まずは相談しましょう。

減額返還

災害、傷病、経済困難、失業などの返還困難な事情が生じた場合に願い出できる制度です
当初計画通りの返還は難しいが、減額した金額ならば返還できる見込みがある場合には、減額する代わりに返済期間を延長してもらうという方法があります。
金額については当初予定金額の1/2、または、1/3に減額してもらえます。

注意
返還予定総額が減額されるわけではありません。
延滞している場合は願い出できません。

申込要件
給与所得者:収入300万円
給与所得以外の所得を含む場合:所得200万円

なお、本人の被扶養者について1人につき38万円を収入・所得金額から控除して審査されます。
また、減額返還適用者は一律25万円を収入・所得金額から控除して審査されます。

例:給与収入 350万円 扶養家族1人の場合

350万円-25万円(一律控除)-38万円(扶養家族1人)=287万円となり基準を満たすので、減額返還を申請できます。

返済期限猶予制度

1/3に減額してもらったとしても返済が困難な場合は、返済そのものを待ってもらうことができます。これを返済期限猶予制度と呼びます。

返済期限猶予は一年毎に願出が必要です。
また、適用期間は通算10年(120か月)です。
(ただし災害、傷病、生活保護受給中、産休・育休中、一部の大学校在学、海外派遣の場合には10年の制限がありません。)

注意
返還予定総額が減額されるわけではありません。

申込要件
給与所得者 年間収入金額(税込) 300万円以下
給与所得以外の所得を含む場合 年間所得金額(必要経費等控除後) 200万円以下

減額や返済期限猶予をしても支払ができない場合は、自己破産を含む債務整理を検討することとなります。
ただし、返済期限猶予を使えば、10年間は返済を待ってもらえますから、債務整理は最後の方法と考えましょう。

親に連帯保証人になってもらっている場合は、親に請求が回ります。親も定年後で返済するのに十分な収入がない場合は、自宅を売却して返済する、あるいは、以下で述べる個人再生手続きなどが必要となります。

債務整理の種類

債務整理と聞くと、まず、自己破産を思い浮かべますが、その他の方法もあります。
ここでは債務整理の種類を述べます。

自己破産

自己破産とは、裁判所から借金の免責(支払の責任を問わずに許されること)決定を得るための手続きです。
つまり、借金が完全にゼロとなります(ただし、税金や健康保険の滞納、罰金についての支払義務は残ります)。

これは多重債務者にとって大きなメリットなのですが、当然、家や車、生命保険などの自分自身の財産があれば、それらは処分しなければなりません。

また、一部の職業には就けないなどの制限があります。

関係しない方も多いでしょうが、主な職業としては、生命保険募集人、不動産鑑定士、建設業者、旅行業者、有価証券投資顧問業者、警備業者、質屋、弁護士、司法書士、公認会計士、税理士といった職業です。

また、 官報にも名前が掲載されてしまいます。ただ、官報を読んでいる人は、ほとんどいませんので、これは、あまり気にする必要はないでしょう。

任意(私的)整理

任意整理とは裁判所などの公的機関を利用せずに私的に業者と話し合い債務整理を行うことです。
借金を減額してもらい一括返済する方法や中間利息などのカットによる分割返済の方法があります。

ただし、債務者本人がクレジット会社と直接交渉してもなかなか交渉に応じてくれません。
現実的には弁護士に依頼し、弁護士から各業者へ交渉して頂くことが一般的なスタイルとなります。

調停による整理

債務額がそれほど大きくない場合には任意整理のほかに調停制度を利用するという方法もあります。
裁判所の調停委員が当事者間のあっせんをして合意を成立させる方法です。

調停による整理の最大のメリットは、費用がほとんどかからないことです。

通常、弁護士に依頼する場合は、数十万円の費用が発生しますが、
この場合、専門知識のある裁判所の調停委員に依頼をするため、費用がほとんどかかりません。

ただ、あくまで業者が合意しなければ成立しませんし、業者が出頭してくれなければ、そもそも話し合いにもなりませんので調停では拉致があかないケースも考えられます。

個人再生手続き

個人再生手続きは、住宅ローンを除く負債総額が5000万円以下の個人で将来において一定の収入を得る見込みがある個人であれば利用できる制度です。

逆に言えば、住宅ローンを除く負債総額が5000万円以上(これに該当する人は相当少ないと思いますが)あるか、もしくは、一定の収入を得る見込みがなければ、この手続きを利用することは相当難しくなります。

したがって、個人再生を利用しようとする時点で無職や生活保護を考えている人にとっては利用できない方法です。

自己破産においては、住宅も没収されてしまいますが、この制度であれば、住宅ローン以外の借金を圧縮することができます。

おおよその目安として、以下の金額を超える分の金額に関しては借金の返済が免除となります。

100万円未満の人・・・・・・総額全部(100万円未満の金額は返済義務があるので、
個人再生手続きを使うメリットがありません)

100万円以上500万円以下の人・・・・・・100万円
500万円を超え1500万円以下の人・・・・・・総額の5分の1
1500万円を超え3000万円以下の人・・・・・・300万円
3000万円を超え5000万円以下の人・・・・・・総額の10分の1

例えば、1500万円の借金がある場合、
借金が1/5に減額されますので、300万円まで減額されます。

この金額を3年間で返済できれば、残りの1200万円が免除される制度です。

安定収入があり、自宅を維持したいという人にとっては、非常にメリットのある制度です。

弁護士と相談した際に、「自宅を維持したいかどうか」「安定収入があるか」ということを質問されることが多いですが、個人再生が利用できるか、または、自己破産すべきかの判断基準となります。

親が連帯保証人となっており、親に請求が回ったが、既に、「定年後で安定した収入はない。しかし、自宅は残したい」
ということであれば、非常に大きなメリットのある制度ですので、 個人再生手続きを利用したほうがいいでしょう。