以前、住宅ローンの支払に困って、銀行に電話したところ、法テラスの利用を勧められました。
それまで、弁護士と全く無縁だった私は法テラスの名前さえ知らなかったのですが、
銀行が勧めるくらいだから、何かの力になってくれるだろうと思って、
すぐに、インターネットで電話番号を調べて電話しました。
法テラス(日本司法支援センター)とは、国が設立した法的トラブル解決のための「総合案内所」です。
生活上の法的なトラブルに対し、解決に向けた情報を無料で提供して頂けます。
ありがたいことに法テラスは国が補助しているため、
経済的に余裕のない方には3回まで相談が無料になるのです。
この点は、法テラスを使う大きなメリットです。
当時、私は、住宅ローンの滞納が開始した直後で、かなり焦っていたのですが、
電話してみると予約が込み合っており、弁護士と打ち合わせができるのは2週間近く先になるとのこと。
私としては一刻も早く相談に乗って欲しかったのですが、
「まあ、無料だから文句は言えない」と思い、
予約を入れました。
そこで、まず、驚いたのが、てっきり法テラスの事務所に行って相談するものだと思っていたのですが、指定する弁護士の事務所に行くように指示されました。
まあ、そんなものなのかと思って、
約束の日時に弁護士事務所を訪問したのですが、
ここでも、いくつか驚くことがありました。
まず、挨拶の後、
Excelで作成していった債権者一覧表をお渡しして、
借金の内容、および、借金をするに至った経緯をお話しました。
ここで、まず、私が勘違いしていたことは、弁護士というのは、ある種のカウンセラーであり、
何らかの励ましをして頂けるものだと思っていたのです。
例えば、
「まだ、この先10年近く働けるのですから、一生懸命働いて借金を返せるようにしていきましょう」
「個人再生や任意整理という方法で借金を減額できる手段もありますから、
まずは、就職先を見つけ、返せるだけ返していきましょう」
といった相談をしてもらえると思っていたのです。
なぜなら、銀行が勧めたくらいだから、まさか
「借金は返さなくても良い」
といった内容を勧められるとは思っていなかったのです。
ところが、その弁護士は、
私が失業中で無職だということを伝えると、
「はい。それでは自己破産しましょう。この書類にサインしてください」
といきなり自己破産を勧められたのです。
当時は全く自己破産や個人再生についての知識がなかったのですが、
今、考えると生命保険の有無なども全く聞かれなかったように思います。
また、20万円以上の現金や住宅などがあれば管財事件になるといった説明も全くありませんでした。
そして、当時は、まだもう少し借金できる余地がありましたので、
「借金を重ねるのは嫌だけれども、なんとか急場をしのぎ、
その間に新しい就職先を見つければ、
なんとか借金を返していける」と考えていたのです。
その相談をしたかったのに、
そして、銀行から勧められて相談に行ったのに、
いきなり自己破産を勧められたのには驚きました。
それで、あまり知識がないなりに、いくつかの質問を続けました。
私:「えっ、もう破産ですか?私は銀行から法テラスを勧められて、ここに来ました。
ですから、なんとかもう少し支払を待ってもらえるといった方法がないかと思って相談に来たのですが」
弁護士:「今、失業中ですよね。待ってもらったからと言って、払える見込がないのであれば、
これ以上借金を増やすよりも自己破産をしたほうがいいです。」
私:「それは、もう借金を返さなくてもいいということですか?」
弁護士:「言葉は悪いですが、借金を踏み倒すという意味です」
私:「借金を踏み倒すというのは、これまた、過激な表現ですね。
倫理的には、あまり良くないことですね。
それに、銀行に勧められて、こちらにお伺いしたのに、
そのお金を返さなくてもいいということなのですか?」
弁護士:「倫理的に良くなくても返せなければ仕方ないですよね。
それに、借入先は幸い超大手の優良企業ですから、
これくらいの金額では取り立てもたいして厳しくないでしょう。
債務整理をすると言えば、すぐに、納得してくれます」
弁護士:「それに、借金を返せないという人や返せない企業は一定の割合でいます。
銀行も保険に入っています。だから、あなたが住宅ローンを支払えないとなると、
銀行の債権は保証会社に移って行きます。
銀行は、保証会社から残債の保証を受けるので、損失はゼロです。
また、保証会社は、あなたが住宅ローンを支払っていた間、銀行から保証料をもらっていますし、
保証会社自体も保険に入っていますので、彼らが損をすることはありません。
当然、銀行の担当者もこの仕組みを知っていますので、あなたに、法テラスを勧めたわけです。」
弁護士:「だいたい、破産するような人がいなければ、そもそも保証会社も必要ありません。
また、問題があるから、私のような弁護士という職業があるのです。
全く問題がなければ、弁護士なんか必要ではないじゃないですか。
病気があるから医者が必要。それと同じようなものです。
我々、弁護士や医者は問題があるから必要とされる職業で、問題がなくなれば、存在意義がなくなります。
それは、保険会社も同様です。だから、借金踏み倒しを気にしないでください」
確かに、その弁護士の言うことには一理あります。
ひょっとしたら、彼女が正しかったのかもしれないと思っています。
ただ、なんとか借金を返済したいと思っていた私は、
「まだ、いくらかは借金ができる余地がありますので、今すぐに、自己破産するつもりはありません。
また、就職が決まれば、借金を返していけます。
まず、今日のところは、自己破産した場合のメリットとデメリットを教えてください」
と頼みました。
それから、気になっていたが、質問しにくかったこと、
「私が、この場で自己破産の書類にサインをすれば、あなたの収入になるのではないですか?」
ということも尋ねました。
ただ、この点に関しては、
「いえ。私ではなく、他の弁護士が担当する決まりになっています」
と回答されました。
今、考えると、これも質問をはぐらかされたのでしょうか?
その後、法テラスを使って、別の弁護士二人と相談しましたが、その時には、
「初回面談を受けた弁護士が担当しないルールになっている」
とは言われませんでした。
むしろ、
「私で良ければ、お引き受けします。ただ、まだ自己破産するタイミングではないと思います」
といったアドバイスを受けました。
その後、話は家族の話に移り、娘がファッションモデルをしていることを告げると、
「キャー、凄いですね。私の娘もファッションモデルにしたいんですけど、どうしたらいいです?」
と弁護士に相談に行って、逆に、相談されました。
それから数ヶ月間は同じように悶々と過ごしていたのですが、どういうわけか、かなりの高給で再就職が決まりました。
それまで管理職の経験もなかったのに、いきなり部長職での採用。
ただ、娘を置いて単身赴任となり、二重生活だったこともあって、
借金を返すだけで精一杯の生活を一年半ほど続けました。
それまで自炊したこともなかったのですが、自炊に切り替え、食費も削りに削りました。
借金も返していれば、少しずつ減っていきます。
定年の頃には住宅ローンは少々残りますが、その他の借金は完済できる見込みでした。
ただ、なかなか思う通りにいかず、会社を辞めざるを得ない状況となり、再び同じような状況に陥りました。
ひょっとすると、彼女は正しかったのでしょうか?
その時、彼女の勧めにしたがっていれば、借金はゼロになっていたでしょう。