法テラスとは、正式名称を日本司法支援センターと言い、国によって設立された法的トラブル解決のための「総合案内所」です。
自己破産を考えている人は、ただでさえお金がなくて支払に困っているのですから、そのうえ弁護士費用を払えるのだろうかと心配になります。
一般の弁護士ならば法律相談でも30分5,000円ほどの料金を請求されますが、法テラスの場合は一つの案件につき、3回まで無料相談を受けられます。
また、法テラスを通じて自己破産の処理を正式に弁護士に依頼した場合、直接弁護士に依頼する場合の半額程度の費用で済みます。
しかも、経済的に余裕がない方のためには、弁護士や司法書士の費用の立替まで行ってくれます。そして、立て替えてもらった費用は月額5,000円~10,000円といった費用で無利子での分割払いが可能です。
まさに、自己破産を考えている人にとっては大変ありがたい制度です。
ところが、実は法テラスを使わず、あえて法テラスよりも高い料金を支払って弁護士に依頼したほうが手元に残るお金が多くなる場合があるのです。
この記事では、どんな場合に法テラスを使うべきか?どんな場合には法テラスを使わないほうがいいのかを書いています。
法テラスに民事法律扶助を依頼できる条件
さて、法テラスを使うべきかどうかの判断の前に、まず、法テラスに依頼できる条件があります。そもそも法テラスは経済的に余裕がない方のための制度なので、法テラスを通さずとも十分に支払余力がある方は利用できません。
法テラスでの支援業務を民事法律扶助業務と呼びますが、業務には大きく分けて二つあります。
ひとつは、無料で法律相談を行う「法律相談援助」。
もうひとつは弁護士・司法書士の費用の立替えを行う「代理援助」「書類作成援助」業務です。
法律相談援助に関しては、収入制限が決まっており、また、代理援助・書類作成援助業務に関しては、収入制限に加え、財産の上限も決まっております。
例えば、弁護士による代理援助を受けようとすれば、世帯人数が一人であれば、収入が182,000円以下、資産が180万円以下の場合にしか援助を受けることができません。
条件については、世帯人数・住んでいる地域・家賃や住宅ローンの有無によって異なってきますので、以下の記事を参照願います。
ただし、法テラスを利用できる場合であっても法テラスを通さずに弁護士に直接依頼したほうが手元に残せるお金が多くなる場合があるのです。
法テラスを使わないほうが多くのお金を残せる場合
自由財産とは?
自己破産というと全ての資産を没収されると思われるかもしれませんが、以下の財産については、自由財産と呼び、自己破産しても処分されずに済みます。
- 新得財産
- 差押禁止財産
- 99万円以下の現金
新得財産とは?
20万円以上の現金・預金や20万円以上の価値がある不動産や車などの財産があった場合には破産管財人がつき、管財事件となります。ただし、日本の破産法では,破産管財人が管理する破産財団に組み入れられる財産は,破産手続開始時に破産者が有している財産とされています。破産手続開始後に破産者が新たに取得した財産のことを「新得財産」と呼び、これは自己破産しても処分されません。
例えば、失業により自己破産をせざるを得なくなったが、破産開始手続き後、以前と同じレベルの給料が貰える就職先が見つかった場合などが、これに相当します。この場合、再度、分割で支払ができるようになったとしても自己破産の手続きを進めることができます。
また、20万円以上の現金・預金、もしくは、20万円以上の価値がある不動産や車があった場合は管財事件となるとされています。ただし、運用方法は地方の裁判所によって少しずつ異なります。20万円以上の価値がある不動産や車などはなく、現金のみ50万円保持しているといった場合には管財事件とならず、同時廃止にしている裁判所もあります。
差押禁止財産とは?
日常生活において必要不可欠な衣服、寝具、家具、キッチン用品、食料や燃料などは差押禁止財産とされています。
99万円以下の現金
ここでいう現金とは、本当に現金のことだけを指しています。銀行預金やゆうちょの貯金は含まれません。
つまり、破産開始手続き開始時点で99万円以上の財産があった場合は、破産管財人により、没収されてしまいます。
160万円以上の財産がある場合は法テラスよりも直接弁護士に依頼すべき
これらの条件を踏まえて考えると、160万円以上の資産があった場合は法テラスよりも直接弁護士に依頼したほうが手元に残せる現金が多くなる可能性が高いのです。
例えば、以下のケースで考えてみましょう。
破産手続き開始前の時点で財産180万円
(世帯人数一人の場合の民事法律扶助を利用できる上限金額)
法テラスを通して弁護士に依頼した場合の自由に使える財産
法テラスを通して弁護士に依頼した場合は以下の通りとなります。
破産手続き開始前財産 180万円
破産管財人への支払 20万円
没収財産 61万円
法テラスへの支払 20万円(弁護士への立替費用 分割払い)
自由に使える財産 79万円
まず、破産管財人への支払が20万円。
この後、99万円の自由財産を超える金額は没収されますので、没収される財産は180万円-20万円(破産管財人への支払費用)-99万円(自由財産)=61万円
99万円の現金は自由財産として残りますが、この中から、法テラスが立て替えた弁護士費用を分割で支払っていくこととなりますので自由に使える財産は79万円となります。
直接弁護士に依頼した場合
破産手続き開始前財産 180万円
弁護士への着手金 40万円
破産管財人への支払 20万円
没収財産 21万円
自由に使える財産 99万円
破産管財人への支払20万円はどちらも同じです。
ただし、直接弁護士に依頼した場合は、事前に弁護士へ着手金を支払いますので、その分、没収金額が少なくなります。
自己破産における弁護士費用は法律事務所によって異なりますが、一般的には40万円前後のケースが多いです。
したがって、財産が160万円(自由財産99万円+弁護士費用40万円+破産管財人費用20万円≒160万円)以上ある場合は、法テラスを使うよりも直接弁護士事務所に依頼したほうが自由に使える財産、つまり、手元に残せるお金が多くなります。
いつ弁護士に依頼すべきか?
弁護士との契約から免責決定までのタイムスケジュール
管財事件になった場合の弁護士との契約から免責決定までのおよそのタイムスケジュールは以下の通りです。
契約 N月1日
受任通知発送 N月4日
各種資料集め N+2月4日
申立 N+3月4日
破産開始手続き開始 N+3月11日
債権者集会 N+6月11日
免責決定 N+6月18日
弁護士が破産申立をしてから数日後に管財人との面接が行われ、1週間前後で破産開始手続きが開始されます。
また、破産開始手続き時点で99万円以上の現金があれば没収されますので、破産管財人の費用約20万円と合わせて、弁護士から破産の申立をして頂く時点で120万円前後の資産を残しておくことが最も手元に多くの財産を残せる形となります。
弁護士への依頼時期の決め方
今後の生活再建を考えると、できるだけ多くの現金を残しておきたいところです。ただし、財産隠しをすると免責そのものが許可されない恐れがあります。このため、弁護士との契約時期や弁護士に破産申立をしてもらう時期を調整することで、できるだけ多くの現金を残し、生活を再建できるようにしましょう。
そのためには、収支シミュレーション表を作成し、月末の財産残高をできるだけ正確に予測する必要があります。このためにお勧めするのは以下の作業です。
・家計簿の作成
破産申立にあたって2ケ月以上の家計簿が必要となりますので、自己破産を検討している人はすぐに家計簿の作成を始めましょう。私のお勧めは無料で使えるオンラインソフトの「マネーフォワード」や「Zaim」です。
また、家計簿をつけることでマネーリテラシーが向上しますので、できるだけ早く生あ活を立て直せるようになります。
・保険や個人年金の解約
20万円以上の価値があると判断されれば保険も解約となりますから、事前に解約して現金にしておきましょう。
・車の売却
場所によっては車も生活必需品かもしれませんが、20万円以上の価値があると換金されてしまいます。20万円以下の古い車ならば、そのまま手元に残しておけますが、そうではない場合には売却して現金に換えてしまったほうがいいでしょう。
上記の作業の後、収支シミュレーション表を作成して、弁護士との契約時期や破産申立時期を検討しましょう。
弁護士の選び方
法テラスから弁護士を紹介してもらう場合では、離婚問題には強いが、債務整理の経験は少ないといった弁護士に当たってしまう可能性もあります。
弁護士を選ぶにあたっては債務整理に強い弁護士を選びましょう。
ほとんどの弁護士事務所では初回相談は無料の事務所が多いので、まずは、いくつかの弁護士事務所に相談してみましょう。